2006.11.24.(FRI)

Aiichiro Kohno

〜テーマカレッジ演習 自然科学を読む〜

『核拡散と合理的試行』

〜数理的手法の導入と現状の分析〜

 

 

1 私が考えたいこと〜科学と理性〜 (以前、紹介したものと同じ文章です。)

 

 自然科学の発達によって、人間の生活はより豊かになったが、その裏腹、人間に危害を与えてしまうものもある。例えば、簡単なもので言えば、自動車がある。自動車普及によるモータリゼーション社会の到来によって、移動における利便性を享受しているかと思いきや、毎日、日本だけでも約20人が交通事故によって亡くなっている。他にも、原子力発電やクローン技術、その他、公害全般を引き起こすような工業などがあろう。

 しかし、現在に至るまで、自然科学の発達によって生み出された、あらゆる技術に対する危険性が指摘されていても、人間は技術開発をやめようとはしない。なぜならば、多くの人間が、技術開発によるリスクよりも利益の方が上回ると考えているからである。たとえ、いざとなった際に甚大なる被害をもたらすであろうという核技術に対しても、国家や企業は合理的に扱っていくからとりあえず安心だ、と人々は信じている。

 ここで、核技術に関する話を取り上げる。現在、世界の大国とされる国は核兵器を持っている。それは、一瞬にして国ひとつを焼いてしまうほどの威力を持っている。そして、互いに牽制し合っている。だからといって、核兵器を国の人々やそれによって守られている国の人々は、実際に核兵器が未来永劫、使われるとは、ほとんど思っていない。なぜならば、核兵器を動かすであろう国家の指導者は合理的に行動するであろうと信じているからである。というのは、例えば、核保有国であるA国とB国が敵対していて、A国がB国に対し核ミサイルと落としたら、B国は甚大なる被害を受けるので報復し、A国も核による被害で破壊される。つまり、核兵器を行使しても、結局、自分たちにも耐えがたい被害を受けるので、核兵器を行使することは合理的とは言えないのである。よって、国家が合理的に動く限り、実際に核兵器が使われることはないだろう。

 しかし、逆に言えば、その合理的という前提が崩れ去れば、核技術は極めて危険であると言うことが分かる。というのは、自分たちが破滅しようとも構わない、と考えている場合である。例えば、イスラム原理主義勢力の一部は、守るべき国家がなく、しかも神への帰依をエスカレートさせ、理性を失い、自爆テロを起こしている。本来、人間は自分の生命を維持することを最低限度の条件とするので、自爆テロ=自殺は非合理的な行動であるはずである。このようなテロリストや、たとえ国家であっても、理性が欠けている指導者の管理下に核兵器が渡れば、自分たちへの被害をも省みないので何をするか予測不可能であり、極めて危険である。

 このように自然科学によって生み出された技術が、非合理的な者の手によって扱われるといかに危険であるか、また、それを防ぐにはどうすべきか、ということについて考えていきたい。

 

 

2 利得表におけるゲーム理論の紹介

 

☆ゲーム理論とは?

 

・ある集団において、その構成員が少ない場合、ある者の行動は、他の者の行動から影響を受けたり、また他の者の行動に影響を与えたりする可能性がある。このとき、これらの構成員は相互依存関係にあり、他の者の行動や自分の行動に対する他の者の反応などを予測しながら、戦略的に行動することになる。ゲーム理論は、このような相互依存関係にある状況を一種のゲームとみなし、そこでの各人の行動や均衡などを分析する。

 

a)語句や基本概念に対する整理

 

@ dominant strategy(支配戦略)

 

・・・他のプレイヤーによって選ばれる戦略に関係なく、あるプレイヤーにとって最適な選択

 

A prisoners dilemma(囚人のジレンマ)

 

・・・相互に利益が得られるときでさえ、なぜ協調を維持することが困難であるかを例示する、2人の囚人間の特定の「ゲーム」。

 

B dominaed strategy

 

・・・他のプレイヤーによって選ばれる戦略に関係なく、あるプレイヤーにとって選択する可能性がない選択。

 

C ゲームの分析において

 

・・・各プレイヤーが単に合理的であるということだけではなく、各プレイヤーがその他のプレイヤーが合理的であると互いに信じあっているということも、重要である。

 

D Nash equilibrium(ナッシュ均衡)

 

・・・相手の戦略を所与としたとき、自分の利得を最大にするような選択(最適反応: best response)を各プレイヤーが互いに行い、均衡している状態。(つまり、相手がbest response戦略を取っているときに、自分もbest response,している状態。)

 

 

<ナッシュ均衡の定義>

 

プレイヤーAとBが存在し、各プレイヤーの戦略を、及び各プレイヤーの利得関数をプレイヤーA、Bそれぞれとしたとき、

 

 

上式があらゆるにおいて、成立する戦略の組み合わせをナッシュ均衡という。

以下のmatrixの分析では、上の前提で話を進める。

 

 

b)標準型ゲーム:matrix(利得表)による分析

 

The Prisoners Dilemma Game

 

 

 

Player2

 

Strategy

L

R

Player1

T

(5,5)

(3,6)

B

(6,3)

(4,4)

 

[Step1] Player1dominant strategyを求める

 

        Case1

 

 

Player2

 

Strategy

L

R

Player1

T

(5,5)

(3,6)

B

(6,3)

(4,4)

 

= 5, =6 であり、

よって、Player1を選択することが、合理的といえる。・・・@

 

        Case2

 

 

Player2

 

Strategy

L

R

Player1

T

(5,5)

(3,6)

B

(6,3)

(4,4)

 

= 3, =4 であり、

よって、Player1を選択することが、合理的といえる。・・・A

 

@、Aより、Player1は、Player2がどのような選択をしようとも、を選択する。

 

 

Player2

 

Strategy

L

R

Player1

T

(5,5)

(3,6)

B

(6,3)

(4,4)

 

 

dominated strategy

dominant strategy

 

よって、Player1dominant strategyは、といえる。・・・B

 

 

[Step2] 同様に、Player2dominant strategyを求める

 

        Case1

 

 

Player2

 

Strategy

L

R

Player1

T

(5,5)

(3,6)

B

(6,3)

(4,4)

 

= 5, =6 であり、

よって、Player2はを選択することが、合理的といえる。・・・C

 

        Case2

 

 

Player2

 

Strategy

L

R

Player1

T

(5,5)

(3,6)

B

(6,3)

(4,4)

 

= 3, =4 であり、

よって、Player1を選択することが、合理的といえる。・・・D

 

C、Dより、Player2は、Player1がどのような選択をしようとも、を選択する。

 

 

Player2

 

Strategy

L

R

Player1

T

(5,5)

(3,6)

B

(6,3)

(4,4)

      dominated strategy      dominant strategy

よって、Player2dominant strategyは、といえる。・・・E

 

よって、B、Eより、が選択される。とすれば、

 

 

Player2

 

Strategy

L

R

Player1

T

(5,5)

(3,6)

B

(6,3)

(4,4)

 

あらゆるにおいて、

が成立するので、がナッシュ均衡といえる。

 

 

3 今回の分析

 

<仮定> あらゆる国家において・・・

モデルの単純化のため、利得を以下のように仮定する。

 

核行使の際の国際的援助、及び非難 50、−50

侵略された際の国際的援助、及び非難 10、−10

戦争に勝利、敗北 100、−100

(戦争をする際の費用はこれに含まれる。 )

大国が核兵器を開発・維持するための費用 −5

小国が核兵器を開発・維持するための費用 −40

(上2つには核保持による国際的非難も含まれる)

核爆発による被害 −10000

戦争をしない際の、大国・小国の利益を、10、−10

 

・今回は利害関係にある2カ国(A,B)を考える。

・また、軍事力の強い国を大国、弱い国を小国とする。

 (核が行使されない戦時には、大国は小国に勝利)

・核兵器維持費用は核の所持に関する分析で考慮

・A,Bは互いの利得を把握

・展開型ゲームにおいては完全情報ゲームだとする。 

 ・4の分析ではA,Bともに同レベルの国家 5の分析ではAが大国、Bが小国

これらに基づいて、国家が合理的に行動する。

 

 

a)大国または小国同士の関係

 

 

利得表@

使う

使わない

使う

-10000,-10000

(50,-10050)

使わない

(-10050,50)

(0,0)

 

利得表A

する

しない

する

-10000,-10000

90,-90

しない

-90,90

(0,0)

(例)キューバ危機など

 

利得表B

使わない

使う

(50,-10050)

使わない

0,0

 

利得表C

する

しない

する

(50,-10050)

(90,-90)

しない

(-90,90)

(0,0)

 

利得表D

する

しない

する

(0,0)

(90,-90)

しない

(-90,90)

(0,0)

(例)

現に、ここ60年で戦争が起きているのは、力の差がはっきりしない核非保持の国家同士である。

 

※ここで、核兵器維持費用-5を考慮。

利得表E

持つ

持たない

持つ

(-5,-5)

(85,-90)

持たない

(-90,85)

(0,0)

 

双方とも核兵器を持つが、核戦争が起きるわけではない。

 

 

b)大国と小国の関係

 

 

利得表@

使う

使わない

使う

-10000,-10000

(50,-10050)

使わない

(-10050,50)

(100,-100)

 

利得表A

する

しない

する

-10000,-10000

90,-90

しない

-90,90

(10,-10)

 

利得表B

使わない

使う

(50,-10050)

使わない

100,-100

 

利得表C

する

しない

する

(100,-100)

(90,-90)

しない

(-90,90)

(10,-10)

 

利得表D

使う

使わない

使わない

(-10050,50)

(100,-100)

 

 

 

 

 

利得表E

する

しない

する

(-10050,50)

(90,-90)

しない

(-90,90)

(10,-10)

 

利得表F

する

しない

する

(100,-100)

(90,-90)

しない

(-90,90)

(10,-10)

 

※ここで、核兵器維持費用を考慮。

利得表G

持つ

持たない

持つ

(-5,-40)

(85,-90)

持たない

(-90,50)

(90,-90)

 

双方とも核兵器を持つが、核戦争が起きるわけではない。

 

(例)

国力の差がはっきりしている場合、ほとんど戦争に発展しない。

60年代前後の植民地独立は、その例外だが、その際には国際的非難の度合いが大きかったからだと思われる。

 

 

4 結論

 

<合理的試行の結果>

3のa、bより、利害関係がある国が小国であろうと大国であろうと、

 

   (1)核拡散が起きる

   (2)パレート最適は達成されない

      元々、

      ・大国は持たないほうが利得がよい

      ・小国は持ったほうが利得が向上

      (大国が核放棄しても核廃絶は無理?)

   (3)しかし、核戦争は起きない(核抑止)

 

<合理的試行そのものへの問題>

 

合理的考えれば、核拡散は止められないが、核戦争は起きない。

 

しかし、世の中には合理的に行動しない者もいる。

 (例)非民主主義国家、テロ組織 など

 

彼らに核が渡った場合には、何が起こるか分からないので、核が行使される可能性もあり危険である。

 

・結論で明らかになった問題は以下の2点である。

 (1)核拡散しないほうが世界全体のためには良いが(大国ためだけに考えても良いが)、それは止められない。

 →仮定を変化させることで、解決できないか考える。(国際的非難・報復の増大など)

 (2)非合理的集団においては、極めて危険である。

 →現状の対策を調べ、考察する。    <続>

 

【参考文献】

Luis Cabral “Industrial Organization

・中央経済社 早稲田大学商学部編 「入門ミクロ経済学」

【推薦図書】

・松原望 「ゲームとしての社会戦略」