〜6月29日 市田敏啓ゼミナール/国際貿易と経済学

『 市場の失敗とその対応 

(1)市場の失敗とは?

 

●負の外部性を使って説明しよう

 

外部性による追加被害(費用)により、MCがグラフのp軸方向に増加した。それによって、左図のような状態となる。

 

 ここで、社会的な余剰について計算してみる。

 

i) qに生産量が設定された場合

 

生産者余剰と消費者余剰の合計は、需要曲線(D,MU)と供給曲線(SMC)によって挟まれた面積に該当するので、台形ABFC

 

そこで、追加費用(被害)として、平行四辺形GBFC

 

∴ (社会的余剰)=(台形ABFC)ー(平行四辺形GBFC)=△AGC

 

ii) 現実は市場作用によって、q*に均衡が定まる。このとき、

 

生産者余剰と消費者余剰の合計は、△ABE

 

そこで、追加費用(被害)として、平行四辺形GBED

 

∴ (社会的余剰)=△ABEー(平行四辺形GBED)=△AGCー△CDE

 

i)、ii)より、現実は、社会的余剰を最大にさせる水準(q)から過大に生産される。

(なぜならば、q*ではMU<SMCが成立するから)

 

このように、市場が、最も効率的な資源配分の実現に失敗することを、市場の失敗(market failureという。

 

 

(2)解決策

・・・生産量をq*→qへと変化させるには、生産者と消費者をコントロールできる存在、例えば政府からの関与が必要である。

 

@    regulation/直接規制

 

もし、政府が適切な生産量(q)を知っていたとすれば、生産者の生産量をその水準と一致させるような、直接的な数量規制を行えば良い。

 

【問題点】 

1.政府がqを把握するには、前項で出てきたSMC曲線と需要曲線の形状や関数が正しく知られていなければならないが、現実的に、政府がそれらの正確な情報を持つのは難しい。

2.1つの産業において、多数の企業が存在している場合、それぞれの企業によってPMCの形状は異なるはずなので、適正な生産量もそれぞれで異なってくるはず。つまり、個々の企業の実情に合わせた規制が必要になってくるが、そんな細かな規制を実施するのも難しい。

3.規制を満たしている下では、負の外部性をできるだけ減らしてやろうとするインセンティブが働かない。

 

 

A    ピグー税

 

負の外部性が発生している場合、PMCが分からなくても、外部費用(一単位当たりd)の程度が分かっていれば、外部費用に相当する税(一単位当たりT)を課すことによって、社会的に効率的な生産(q)が実現する。

 

SMC−PMC=d=T

 

すると、税が生産量qに応じて額が生産者に課税されるので、この額の分、PMCが増え、税額=外部費用が内部化され、SMC=PMCとなる。結果、q=q*=qとなる。

 

☆消費者が間接税を払う場合でも、同様な結果が得られる。

 

(例)ガソリン税、ドイツなどヨーロッパ諸国における炭素税

・・・短期における価格弾力性は低いが、長期では、ガソリン税の効果が本領を発揮して、価格弾力性は高くなり、ガソリン使用量が大きく減少することになる。

 

【他のメリット】

・・・汚染量に対し課税される場合、汚染量をできるだけ軽減しようとするインセンティブが働く。

 

 

B    補助金

 

 正の外部性による市場の失敗を是正する目的で、導入される。

 

 正の外部性が機能している状態では、生産者ならばMCを下げることによって、効率的な生産量が達成される。この際、MCを下げさせる働きを持つのが、生産者への補助金である。SMU−PMU=dをq一単位の補助金額とすれば、q=q*=qが達成される。

 

(例)研究機関、私立大学への補助金(例えば、21世紀COEプログラムなど)

 

 

C    所有権による対応:コースの定理

 


☆コースの定理

   外部性が存在する環境に所有権が与えられさえすれば、その所有権が利害関係のある当事者どちらかに与えられていても、交渉費用をかけない市場作用によって、当事者双方の厚生は改善され、社会的な効率性が改善する。

 

※所有権の割当によって、効率性の改善が阻害させることはないが、所得の分配は大きく左右される。

 

この考えに基づいて、外部性に対する効率性回復のため、政府(や支配者)が当事者どちらかに、所有権を与える。

 

 

(イ)          所有権割当

 

 例えば、町には2つの企業、石油化学工場とクリーニング業者が存在していたとする。クリーニング業者は石油化学工場の発する煤煙により被害を受けていた。裁判の結果、クリーニング業者の環境使用権が確定した。しかし、石油化学工場は煤煙を抑えることは不可能である。そこで、石油化学工場がM&Aによって、クリーニング業者を買収し、環境使用権を獲得する。工場の生産は継続するが、煤煙の量が多すぎるとクリーニング部門の利益は大きく減少し、全体の利益も減少。結果、長期的視野に立って、双方の利潤が最大化されるような工場生産量が定められ、効率的な資源配分が達成される。

 

(例)鯨・石油など

 

 

(ロ)           当事者間交渉

 

 例えば、生産者が生産活動において周辺住民に公害を与えていたとする。この被害がAに対し、生産者が生産活動によって得ていた利得がBだとしよう。以下、交渉費用が0の仮定で考える。

 

    政府が、住民に公害を受けない権利(環境の所有権)を与えた場合

 

・A<Bの場合

生産者がA以上B以下の額のお金を住民に支払って、環境使用権を買い取る。

 

・A>Bの場合

住民はAより小の値段では使用権を売らない。しかし、生産者のとっては使用権はBより大きい価値はない。よって生産者が公害を出すことを諦める。

 

    政府が、生産者に公害をしてもいい権利(環境の所有権)を与えた場合

 

住民が使用権を買い取るか買い取らないかと言うことを軸に同様に考える。

 

 

(ハ)         取引可能許可書/取引権市場

 

 適正な生産規模(q)の分だけの許可書を政府が発行して販売(または配布)。その許可書は転売することが許されているとする。よって、許可量に余っている企業が、不足している企業に販売することができる。

 

【メリット】

1.確実に適正規模に収束

2.例えば環境汚染の場合では、汚染を減らせば減らすほど収入が増加するはずなので、最善の汚染防止装置の開発を促す。

 

(例)二酸化炭素排出権取引/毎日新聞

 

近事片々:温室効果ガスの排出権取引が本格化…

 

 温室効果ガスの排出権取引が本格化。温暖化問題は地球問題、地球のどこであっても温室効果ガスが減れば地球全体でも減少する。減らす余地が少ない先進国が途上国の温室効果ガスを減らし、減らした分を買い取って自国の削減分に組み入れる。排出権取引だ。

 温室効果ガスを減らせばもうかる仕組みを作る。金もうけの欲望を利用して温室効果ガスを減らす。経済的利得と環境の保全を市場の論理で結合する。これに金融や税制の知恵を加えれば、もっと効果的だろう。

 生命全体の運命にかかわる環境問題への対応は使命感や善意では長続きしない。卑しく見えても、欲望と組み合わせた対応がきっと有効なのだ。

(毎日新聞 2006522日 東京夕刊)