10月12日現代資本主義システム論『ニート問題』について

 

 

1 今回のテーマにおける内容の再確認と補足

 

a)ニートとは何か

 

 NEET(ニート)は、“Not in Employment, Education, or Training”の略称である。すなわち、学業もしておらず、職業訓練も受けておらず、また求職もしていない無業者のことを指す。つまり、例えば、バイトをしていない大学生や、しようとしてできない失業者、主婦、定年退職者、その他いわゆるフリーターなどは含まれない。

 

データ;2003年現在、国内の15歳から34歳だけで63万人存在する。

 

☆ 政府の公的な定義は存在しないが、2004年版労働経済白書では、「非労働力人口のうち、年齢が十五〜三四歳、卒業者、未婚であって、家事・通学をしていない者」を取り上げている。

 

b)ニート問題によって危惧される影響

 

1.社会的弱者と強者の二極化の中で、ますます多くの若者が弱者になっていくこと

2.国として中長期的な人材の基盤が崩壊し、生産力の低下のおそれ

3.将来、社会的能力も身寄りもいない元NEETに対する生活保護のための財政支出の増大

4.NEETたちが、社会的に排除された存在となり、自暴自棄による犯罪行為や社会不安の発生

 

c)NEETの背景・まとめ

 

1.若者の希望する受け皿が必要量提供できていないという社会的な問題と、コミュニケーション能力が低いという個人的な問題がある。

2.NEETになっている人たちには、少年時代に孤立していた人が多く、また、就職活動において仕事を選び好みする人が多い。

3.NEETには義務教育の下に社会に保護された引きこもり少年の延長上にいる人が多くいる。よって、引きこもりを義務教育期間中に復帰させることが有効な手段の一つである。

 

2 独立行政法人・労働政策研究研修機構によるニートの区分

 

@ 「機会を待つ」

・・・単に不景気により求職がないというパターン

A 「刹那を生きる」

・・・中卒・高校中退により遊びや非行に走る

B 「つながりを失う」

・・・コミュニケーション不足により社会から孤立してしまった場合

C 「立ちすくむ」

・・・自分らしい仕事も求めすぎるあまり、行き詰る場合

D 「自信を失う」

・・・一度は就職したが仕事がこなせずにドロップアウトしてしまい、その後も仕事に対して自信が持てないというパターン

 

(毎日新聞2004年9月10日付より)

 

3 NEET問題の原因・背景への考察

 

a)コミュニケーション不足を背景とする場合

 

 このNEETだけに限らず、それにいたる引きこもりやその他社会の多くの場で、現代人のコミュニケーション能力の不足が指摘されている。これには、単に、現代人のコミュニケーション能力が低下しただけではなく、会社など社会において求められるコミュニケーション・スキルのレベルが高くなったことも原因であろう。では、なぜ、コミュニケーション能力が低下してしまったのか。

 当たり前だが、コミュニケーションとは社会生活の中で人間と人間の間で意思の疎通をすることである。かつては、日本も、農村社会が中心であった頃には、血縁関係を基軸とした農村共同体の中で子供を育て、お互いに支えあっていくという伝統が有史以来長く続いていた。その中では、人と人とのつながりは、狭いかも知れないが、深く、密接であり、コミュニケーション能力は育っていくうちに自然と育まれるものであったのだろう。ところが、第2次世界大戦終結以降の高度経済性成長期において、大都市への単身離村、さらに挙家離村による人口流出により、農村社会は崩壊し、核家族の集合体である都市中心の社会へと移行した。そうなると、都市には接する人の量は多いだろうが、一人一人との付き合いが希薄なものとなり、コミュニケーション能力が自動的に育成されるというわけにはいかなくなる。それに加えて、90年代初頭のバブル崩壊以降の悪化する社会不安の中、人間と人間の間の不信感はかつてないほどにまで高まった。このような急激な環境の変化に対応できていない社会の中で、特に若者の間に、コミュニケーションの経験が育成されないのではないだろうか。

 また、単に社会環境の変化だけではなく、教育にも原因があるだろう。戦後民主主義の中作られた、学校教育の根本に存在するする教育基本法では、ひとりひとりの個性を重視することを謳っている。それ自体は非常にいいのだが、それを余りにも強調し過ぎてきたあまり、その元で教育されてきた生徒間では個人主義が蔓延し、より広範囲のコミュニケーションが求められる時代にもかかわらず、社会の中で協調することに対する意識があまりにも欠けた子供たちを生み出している。すなわち、そういう教育を受けてきた人たちにとっては、コミュニケーションが必ずしも優先されるべきものとは感じなくなった。結果、引きこもりに走る生徒も発生し、また、コミュニケーション能力を育てないまま大人を迎えてしまった人も多くいるのだろう。

 学校教育だけではない。引きこもりにおいては、家庭内の状況も大きく影響している。戦後60年で、次第に自由な人生行動が認められるようになる中で、共働きや一人っ子、離婚、母子家庭の発生などにより、家庭内での教育やコミュニケーションの機会さえも、減少している。特に子供が少ない家庭において、子供に対する過保護や甘えへの許しが進展し、裕福になった家計状況もあって、引きこもりを許容してしまうケースも多い。一度引きこもってしまうと、社会との接点が薄まり、ますます対人能力に陥ってしまうという悪循環に至るのである。

 以上のように、現代のコミュニケーション能力の低下は、戦後民主主義において、経済発展が進んだ社会の行く着く先であるとも見て取れるのである。

 

b)自分らしい仕事を求めすぎたことを原因とする場合

 

そうさ 僕らも  世界に一つだけの花  一人一人違う種を持つ

その花を咲かせることだけに  一生懸命になればいい

 

小さい花や大きな花  一つとして同じものはないから

NO.1 にならなくてもいい  もともと特別な Only one

 

 これは、2003年に大ヒットしたSMAPの「世界に一つだけの花」の歌詞の一部である。ここで謳っているのは、難しいNo.1を目指さなくてもいいから、一人一人互いに異なる自分だけの個性を持っていればいいさ、ということを主張しているのであろう。確かに、どんな分野においてもトップを目指すのは難しいだろうが、この現代の人間社会において、自己の個性に固執していくことが簡単だろうか。先ほども述べたが、現在の学校教育及び世俗において、この歌が大ヒットすることからも分かるように、各個人において個性を求めることがかつてないほど啓発されている。そのため、特に影響を受けやすい若者たちの間に、とにかく個性的な生き方を追い求めさせる。結果、このNEET問題では、自分らしい生き方を求める若者たちの希望と、社会が必要とする人材とにミスマッチが生じ、自分らしさを実現できずにそれに固執し続ける者たちが行き詰ってしまい、挫折を繰り返したあげく、NEETに至るのである。

 自分らしさを求める者たちにとっては、自分らしさを実現してくれる業種がもっと受け入れ口を広げてくれれば喜ばしいことであろう。しかし、生産者と消費者との関係が重視される今日の日本の自由主義経済においては、現在の受け入れ口が現在の社会における適正規模であり、特定の業種でそれを無理に広げ、他方で人材が不足することは、社会にとって不健全な事態である。つまり、自分らしい職を求めすぎることは必ずしも好ましいことではなく、個性を求めすぎる風潮もいいとは言えないのだ。

 

 

4 NEET問題の深刻さ

 

 では、このようにNEETが発生していくことは、どのような問題を引き起こしていくのか。1のb)の2.3.でも述べたが、最も私が危惧しているのは、社会生産力の低下や将来の財政出動への増大である。これらはフリーター問題でも同様である。NEETと同様、増大しているフリーターでも正社員と比べると、大幅に生涯賃金が低い。NEETに至っては、賃金はゼロである。このような所得が低い、あるいは皆無の層が厚くなってしまうと、国内消費の低下を招き、結果的には、GDP(国内総生産)の減少に至るのである。すなわち、日本の経済力の衰退、国力の低下など重大な影響を及ぼしかねず、また、特にNEETの増大は、少子化によって進むであろう労働力減少に拍車をかけ、担い手不足が心配されている将来の社会保障制度をさらに苦境に追い込んでしまう。

 また、彼らが順調に年を取っていき、高齢者になって働けない、あるいは親などの身寄りがいなくなってしまったときのことを考えよう。この際、生活費に困ることが安易に想像されるが、日本国憲法第25条では政府に対し、国民の生存権を義務付けており、彼らがそのままのたれ死ぬのを見過ごすわけにはいかない。政府はそういう場合においても、財政出動によって公的扶助をしていくだろう。しかし、このような対象が余りにも多くなると、当然ながら、ただでさえ苦しい財政をさらに圧迫することになる。すなわち、NEET問題は、単にNEET個人の問題の中で収まらず、社会全体に危機をもたらしかねない問題なのである。

 

 

5 解決策

 

 NEETたちに対して、NPOによる自立支援運動など民間の動きがあるが、40万人〜60万人もいるとされる膨大な数に対しては、ほとんど無力である。よって、4でも述べた社会的な影響にも配慮し、公的な政策の中で大規模に進めていく必要があるのではないか。ただ、その際には、民間の試行の中で必ずしも成功ばかりとは言えない状況でもあるので、試行錯誤を重ね、効率的な体制を整えていく必要がある。

また、NEET予防策も同時進行していかなくてはならない。1のc)の3.でも述べられているが、NEETの前身である引きこもりを義務教育の間に解消していくことが重要であろう。しかし、現在の各教育機関の取り組みにもかかわらず、なかなか目覚しい効果が出ていないのが実情だ。だから、2のa)でも述べたが、そもそもの引きこもりの要因となっている現在の教育政策の転換が必要である。その中で、現在の教育政策を、今日の社会環境とその下の人たちに見合ったものにしていくべきだ。